藤原雄一郎のクルーズワールド
藤原雄一郎のスタテンダム乗船記 −−やっぱり5万トンクラスの船がいい−−

香港にて


香港に停泊中のスタテンダム

スタテンダムから見る香港の夜景
百三十年の伝統を誇るホーランド・アメリカ・ライン。一度乗船してみたいと思っていたところ、近場の香港−・阪十五日間のクルーズが発売されたので早速申し込んで、勇んで香港に乗り込んだ。

なぜか乗船に手間どり待つこと久し・・・

しかし毎回この待ち時間は私にとって貴重な時間、それは乗客ウオッチングの時間なのである。見渡したところ圧倒的に年配の人が多い。しかも何となく上品な人たちであふれている。早速話しかけてみるとアメリカ人特有の気さくな返事が返ってくる。「何となく期待できるな」と直感する。

乗船して


いたる所に生花があります

三層吹き抜けのアトリウム
まずはアトリウムに足を踏み入れる。
地味な印象で光りの濃淡が大きすぎて写真が撮りづらいと直感する。さてともかくも船内を一週しようとエレベータで最上階まであがり、順次船内視察を行う。これは私の定型パターンだ。

「生花がある船は良い船よ」と同伴の奥様はのたまう。彼女の趣味はガーデニングであるからして花には相当うるさい。その彼女が真っ先に歓声をあげた。「あなた、この船は素晴らしいわよ。いたるところに生花があるわ。それも豊富にね」と大変なご満悦である。ところが私は憂鬱になる。この圧倒的な花々の美しさがライトの濃淡の関係でまだ私の腕では写真にそのまま再現できないのだ。私の頭の中は写真撮影しか存在しない。しかしとにかく美しい!


至る所に絵が飾ってあります

美しい装飾
いたるところに絵画がある。それも船にちなんだものが多い。居住区の通路にまで、それぞれのキャビンを開くと見える位置に絵がかざってある。絵だけでなく船の模型や伊万里や有田の陶器など、落ち着いた上質の装飾は「これが百三十年の伝統から生まれたクルーズなのか」と、初日からホーランド・アメリカラインの文化に引き込まれる。なんだか本物のクルーズに出会えた喜びがこみ上げてきた。

メインダイニングにて


メインダイニング入り口

メインダイニング
乗船が遅かったせいで、すぐに夕食の時間になった。ウエイターはにこやかでとても人なつこい。高級船にしてはすこし馴れ馴れしすぎるのではないかと思っていた矢先、「ガッチャーン」と大音声とともに近くで運んできた食事をウエイターがひっくり返す。翌日は違った場所で再び大音声とともに食事をひっくりかえす。山のように食器をかかえたウエイターの重労働に、これが毎日一度の恒例になるのかと不安がよぎる。ヤレヤレ前途多難である。

スープがやってきた。我が奥様は「これは塩辛い」と早速クレームの言葉を発する。今までのクルーズでも全体的に塩味がききすぎているのは知っているだろうに、こともあろうにウエイターに文句をいっている。虫の居所が悪いのか思わず私は身をそらす。しかも素直に「塩味が効きすぎて口にあわない」と言えば良いものを「私は血圧の関係で減塩が必要なの」などとつけくわえる。 ところがである、日本の総代理店から派遣されていた日本人コオーディネータの玉川さんが「明日から必ず良い塩味にします。毎晩次の日のメニューを見せますから選んでおいてください」というではないか。

食卓の生花

最後の晩餐での行事


半信半疑でいたが翌日は完全に好みの塩味になっている。そして初日をのぞいて十三晩、確実にこの約束は実行された。我が奥様の感激はいうまでもない。 ところがある夜のこと「生ハムとスモークサーモンの入ったパスタ」を注文したら塩味の効く生ハム、サーモン抜きでやってきた。単なるパスタをゆでただけのメイン・ディッシュを口にして、我が奥様は絶句。思わず「粉チーズ持ってきて」と頼むとウエイターが本当に心配そうに「塩辛くて身体に悪いですよ」といいながら持ってくる。私は心の中で「血圧などと言うからだ。 ザマー見ろ」とつぶやいた。

初日、二日目と食器を大音声とともにひっくりかえしたウエイターたちも、その後は何事もなく、日を追うに従って親密度が増し、「ツーといえばカー」の関係になってくる。彼らはメインダイニングだけでなくブッフェのリド・レストランでも働いているので、一日中、あちこちで顔をあわす。

食事の配膳が遅いなと思い始めた瞬間に「あと三分待ってください」とか「特別メニューなので遅れてすみません」とのウエイターの一言が私たちの心をとてもなごませてくれる。飲み物の注文を取りに来るのが初日は遅かったけれど、次の日からは「バドワイザーですね。準備しています。」と早い、早い。たまにはアルコール抜きと「土日はアルコールもお休み。月曜日にね」というと月曜日には「バドワイザーですか」とやってくる。とても心地よい。

フォーマルデイ


フォーマルの服装

船長主催のカクテル・パーティ
最初のフォーマルデイには船長主催のカクテル・パーティがあった。入り口に船長が立ち、一人一人丁寧に迎え入れてくれる。そして船長と記念撮影だ。そしてバン・ゴッホ・ラウンジに入ると、シャンペンなどが振る舞われる。それも何度となくシャンペンボトルを持ったウエイターがおかわりにやってくる。

乗客の正装率はきわめて高い。半数以上の男性はタキシードを着ている。タキシード着用でない男性はダーク系統のスーツである。この席でカナダ人のネリーとエレンの二人のおばあちゃんと我が奥様はすっかり意気投合した。その後何度となく船内で出くわし、楽しく知的な会話を楽しんだ。


記念撮影が大繁盛

私たちの担当のヤヤ


欧米人は着飾った服装で写真を撮影するのが好きだ。スタテンダムでも多くの乗客が記念撮影を楽しんでいる。しかし大型船にありがちなアトリウムの一等地を写真撮影で立ち入り禁止にしている乗客不在ぶりと、ホーランド・アメリカラインは明確に一線を画す。商業主義に徹することなく写真撮影が控えめなのだ。

フォーマルデイは三晩あったが最後のフォーマル晩餐ではデザートの時になって場内が暗くなり、ウエイターがデザートを手に線香花火のようにパチパチ光るものをつけて登場する。私たちの担当で良くしてくれたウエイターもその一員である。思わず写真をパチリと撮影し、早速持参のプリンターで印刷し手渡した。もちろんウエイターが喜んだことこの上ない。このように乗客とクルーの暖かい交流はあちこちで見ることができた。

リドレストランにて


リド・レストラン

リド・レストラン入り口
誰でも一番お世話になるのがブッフェのリド・レストランである。ここでの私の一番のお気に入りは絞りたてのオレンジジュースである。オランダ人とおぼしきシェフが甘いオレンジや酸っぱいオレンジの投入タイミングについて厳しく指導している。そのせいか味は抜群である。

朝食はごく普通の洋食スタイルであるが、大型船では玉子調理は一般のところと別に玉子スタンドで調理する。ところがスタテンダムは通常の流れの中で目玉焼きの所、オムレツ調理の所がある。またトーストや私の大好きなベーグルは目の前で焼くのが原則である。そのため目玉焼き、オムレツ調理、トースト焼きのところで行列は滞留する。しかし「できたての朝食を」との船側の意図が伝わって嬉しい。

お友達になったドナ


リドレストランで我が奥様はアメリカ人女性のドナおばあちゃんとまたまた意気投合した。すっかりお友達になり「お互い帰ってもメールで交流するんよ」と約束するくらいになったが、果たして我が奥様はどうするのか今から心配である。

ドナは長崎観光で平和祈念館を見学し「長崎のグランド・ゼロを見て心が痛んだ」という。グランド・ゼロとは何かと思えば原爆のことであった。9・11のアメリカテロ事件でのグランド・ゼロの印象を原爆被災に持ったのであろうか?彼女は大阪寄港では京都見物に出かけ「京都にはグランド・ゼロが無いから心ゆくまで楽しむことができた」と語っていたが私には返す言葉がなかった。

ショウなどの催し物


お世話になったクルーの皆さん

インドネシア・クルーショウ
クルーズの華はショウタイムである。そのメインである歌と踊りのプロダクション・ショウはボーカル四名、ダンサー六名の合計十名でいささか迫力にかける。歌手や器楽演奏、コメディマジックなどもあったが、一般的に観衆の反応も静かである。それよりも夜遅く行われたインドネシア・クルーショウやフィリピン・クルーショウ、それに長崎での幼稚園児による歓迎の踊りなどは大入り満員の拍手喝采で満場総立ちのスタンディングオベーションである。

クルーズも終わりに近く下船説明会ではシャンペンが振る舞われ、お世話になったクルー総登場のイベントがあったが座る余地のないくらいの大入り満員で盛り上がることこの上ない。なんだか乗客同士、クルーとの交流に乗客は反応するようである。

やっぱり五万トンクラスのクルーズが良い




渋い赤がよく似合う
昨今クルーズといえば大型船が時代の趨勢である。確かに大型船は楽しむ場所の選択肢はきわめて豊富で、新しい設備には胸がワクワクするし、ショウも大規模で迫力がある。多くの人が大型船を楽しいと思うのも無理はない。

しかし大型船ではたとえ気のあった乗客と遭遇してもキャビン番号でも聞かないかぎり、まず船内で再会することは難しい。ところがスタテンダムや飛鳥Uのような五万トンクラスの船だと、公共設備の選択肢もほどほどあり、しかも船内で同じ乗客に何度も出くわすことになる。

私はクルーズの楽しみの三大要素としての「設備の豪華さ、快適さ」「ショウなどの催し物の充実」「食事」に加えて「乗客の創り出す雰囲気」を重大要素と考えている。むしろ乗客同士の交流を大切にする「洋上社交界」のために「設備・ショウ・食事」の三大要素があるのに昨今は主客転倒していると思っている。

スタテンダムのような落ち着いた雰囲気で、知的な乗客と欧米の文化を静かに楽しむことがクルーズの原点ではないか。

その意味でホーランド・アメリカラインの文化を体現するスタテンダムはとても気に入った。「また乗船してみたい・・・」 そのような余韻をいつまでも引きずる心地よさを大切にしたい。
執筆者 文● 藤原雄一郎(クルーズコンサルタント)
クルーズの魅力にすっかり取り込まれている私です。
「クルーズの素晴らしさを一人でも多くの人々に伝えたい」そのような気持ちが
感受性を豊かにしてくれます。
夢は大きく「日本のクルーズ人口増加に寄与する」ことです。